STORY1 本質から経営を変える
2021.03.17
経営者自身の人生を豊かにすることで、会社の問題点を改善し成長させていく
「誰にも相談できない…」が病をつくる
岩井はこれまで現場で30年以上、経理財務の実務に携わり、経営危機の経営者と手を携え多くの修羅場を乗り越えて来た。
そんな彼女が必ず耳にした言葉が、経営者からの「誰にも相談できなかった」という一言だ。
会社のナンバー2となる、信頼できる人間が実はいない。
資金繰りに毎月追われている。借り入れの交渉をしたことがない。
銀行に言われるがまま借り入れ、債務超過になって返済が滞っている。
親兄弟、カードローンやキャッシングなど借り入れできるところすべてから借りていて、もうあとがない。
その結果、経営者個人が酒に溺れアルコール依存症になっていたり、毎朝起き上がれない、心のなかで「死にたい」と考えているうつ状態であったりすることも珍しくない。
「誰にも相談できなかった」という状態が、実は経営だけではなく、経営者自身の心身の状態までも水面下で悪化させているのだ。
経営悪化は氷山の一角。その下には経営者個人の人生という本質がある
誰にも相談できなかった経営者たちの苦悩に向き合ってきた岩井は、その経験から「経営とは事実、真実、本質から成り立っている」ということに気づく。
ほとんどの人は経営という表面から見える「事実」を必死に良くしようと、「理想的な状況」に変えようとするが、それは氷山の一角に過ぎないのだ。
経営の下には財務という「真実」が隠されている。
この財務の立て直しができなければ、経営は良くならない。
しかし実は、財務の土台には「本質」、すなわち経営者個人の人生という土台がある。
この土台の部分こそが、財務から経営にまで大きな影響を与えている。
だから、本質をしっかり診ずにその上の部分だけを改善しても、結局はうまくいかないことになる。一時的に改善できたとしても、同じ失敗、問題が繰り返されるのだ。
そのことに気づいた岩井は、「エッセンシャル経営」という独自の経営論をもとに、支援を行っている。
すなわち、財務を立て直す前に“経営者自身の本当の想い”、在り方にまずフォーカスする。
何のために起業し、経営者という生き方を選択しているのか? 真に歓びある、幸せな経営者であるには?――その部分を徹底的に問い直すのだ。
「本質」である経営者自身の人生を豊かにすることで、会社の問題点を改善し成長させていく。
そうすることで、「事実」である会社経営も最終的に変わっていく。
もっとも大切なのは、「本質」=「エッセンシャル」である、という経営の考え方である。
本当に業績アップに必要なのは、経営や財務コンサルではない!
会社の経営が危機に陥ったとき、各種コンサルタントや税理士、会計士などの専門家に相談するのが一般的だろう。
しかし、岩井が一般的ないわゆるコンサルタントと異なるのは、決して経営や財務だけを見る専門家ではないということだ。
税理士や財務コンサルに頼んだ場合、無駄を指摘されたり、経費が何パーセント削減できたという数字に対してのアドバイスに終止することが多い。彼らはあくまでコンサルや特定のスキルを持った専門家であって、経営者ではないと言える。
そのため、経営上どうしても優先すべき支払いや資金の捻出をどうするかといった生きたお金の使い方、現場で気づく不穏な動きなどからのフィードバックを指南できないことも多いと言われる。
「税理士・会計士がいるから大丈夫」というのは、実はかなり思い込みであり、彼らに数字を渡す前にやるべきこと、やらねばならないことが数多くあることをよくよく理解せず、何となく事業を始めて後々大きな損失を抱えてしまう経営者がどれだけ多いことか。
岩井は経営者の立場からも、現場の数字の処理やお金の動かし方、融資返済や資金の調達など、駆けずり回って数多くの会社で解決を図ってきた。
「修羅場コンサルタント」と呼ばれるほど、実務を知り尽くしているがゆえに最後まで全体に関わり、面倒を見ることができるのだ。
専門家が基本的には数字を見るだけなのに対して、岩井は数字から「人」を見る。専門家が介入できない経営の本質――すなわち、経営者個人の人生を診るのが、 “最終兵器”である岩井ならではの仕事である。
【中小企業 再生事例 1】
月末の給与も払えない会社をその月から立て直した
岩井が関わって再生した会社のひとつでは、相談を受けたときにはその月の25日に従業員に支払う給与もない、といった状況もあった。
相談されたのはその月の5,6日頃。年商1億5000万ほどの売上に対して、累積赤字が1億ほどに上っていた。経営者本人は飲み歩いていても、財布の中にもう現金も何もない状態。
「どうするの?」と聞いても、思考が停止していて、現実逃避するばかりだった。
実家・親戚からキャッシングなど、借りられるところすべてから7000~8000万ほど借り入れているため、これ以上打つ手はないかと思われたが、岩井は政策金融公庫からまだ借り入れしていない点に目をつけ、社長の自宅マンションを担保に1500万を借り入れることを提案。
しかし、もはや会社経営に見切りをつけていた奥さんは離婚を望み、マンションを手に入れるために担保は嫌だと主張した。
当時すでに家庭内別居状態で、社長も毎日酒を飲まずには寝られず、マンションから飛び降りることを考え続けていたという。
説得の末、なんとか奥さんが同意してくれ1500万借り入れたことで、急場はしのいだ。
その後、3つの銀行からの借り入れを利率の低い1本にまとめたり、接待交際費など経費の見直し、こだわりがあって受けていた利幅の薄い仕事の縮小……などを次々と実行し、1億あった累積赤字を5年で消すことができ、以降は節税対策を考えるほどになった。
なによりも変わったのは、社長自身がお金がきちんと流れるようになったことで、毎日死ぬことを考える日々から、冷静になって落ち着いた日々を送るようになったこと。
離婚を望んでいた奥さんとの仲も修復され、3年後にはもうひとり子どもが生まれたという。
【事例 2】
アドバイスにより事業黒字化したものの、本人の悪い癖が再び現れたため、契約を解除したことも
このほかに岩井がコンサルティングを引き受けた例では、さまざまな立て直し策で事業が黒字化し今後の大きな展開が見込めたものの、本人の悪い部分が再度出てきて契約を解除したこともある。
著名人も通うプライベートサロンを持ち、セラピスト養成スクールを運営するなど華やかな活動をしていた美容家のケースだ。
毎晩のように外食し移動はすべてタクシー、といった人が羨むような生活の一方で、実際には赤字が続き通帳の残高がほとんどゼロの状態だった。
プライベートサロンでのまとめ払いの施術料やセミナー講師の報酬でなんとか食いつないでいたが、このままでは一人で育てている娘の大学の入学費も払えない。
それでも、同居していた母親と娘には何も言えず、派手な生活を続けていたため、顧問税理士も手を焼いていたという。
岩井は本人と徹底的に話し合い、経費削減と生活の見直しを行った。
まず、5年間の事業計画書を作成し、金融機関へ1500万の借入を申し込んだ。
また美容業界に興味のある投資家へ出資を依頼したり、スクールのプラグラムや価格メニューを見直し、人脈を辿って雑誌などの取材を依頼するなど集客にも努めた。
生活面でも、外食をしないように岩井自らが夕食を作り、状況を察し不安そうな様子の娘さんともコミュニケーションを取って精神的な安定を図るようにした。
こうしてなんとか金融機関から融資が実行され、岩井を信頼する投資家からの短期的な融資も受けられたほか、スクールにも生徒が入るようになり、資金繰りに目処が付くようになった。
娘さんは大学に合格し、無事に入学金や授業料も用意ができた。
本人も精神的に落ち着いてきて、家族での時間も増えてきたという。
岩井は売上が黒字化し事業が順調に回り始めたのを見て、スクールの卒業生が活躍できる場所づくりを計画し始めた。
出資者も見つかり、事業計画も固まってきたものの、肝心の本人には再び以前のような我儘で傲慢な態度が目立つようになっていた。
何度も話し合った末に計画はなしとし、彼女にとってもっとも良い道を考え抜いた岩井は、コンサル契約の解除を申し出た。
自分がいることで甘えが出てしまっているのではないか、逆に追い込まれることで本来持っている力や才能を発揮するのではないか……と考えたのである。
本人は強く反対したが、岩井は金融機関やスタッフとも話し合い、今後の方向性をアドバイスしたうえで彼女のもとを離れた。
その美容家はその後ビジネスパートナーを見つけ、活躍を続けているという。
※ 2020年のインタビューを掲載しております。